正しくて強い組織を作るコーポレート改革 これからのコーポレート部門に必要な5つの要素とは?

取材日:2023/04/17

Webマーケティング事業を展開する株式会社ベーシックでは、業務改革の一環としてコーポレート部門の構築に力を入れています。今回は、これからの時代におけるコーポレート部門に必要なの“5つの要素”について教えていただきました。※本文内、敬称略

お話を伺った人

  • 角田剛史さん

    角田剛史さん

    株式会社ベーシック

    執行役員CAO コーポレート部門長

この事例のポイント

  1. テクノロジーや外部パートナーを最大限活用しながら組織を構築
  2. 「ミッションツリー」で目標を細分化し、コーポレート業務でも挑戦を創出
  3. 行動規範の浸透に注力し、会社の基盤を強固に

あらゆる手段でのコーポレート業務の遂行が求められる時代

これからの時代、組織のコーポレート部門にはどのような力が求められるのでしょうか。

角田:これまで、経理や人事、経営企画などのコーポレート業務は、社内の人間で完結させるケースが多かったと思います。しかし近年はSaaSをはじめとする業務効率化ツールや業務委託サービスが数多く登場し、業務を遂行するための手段が多様化しています。

特に我々のようなベンチャー企業においては、内製にこだわり過ぎることでコーポレート部門が事業の推進を阻害するわけにはいきません。ツールや外部、あらゆる手段を用いながら、コーポレート組織を構築、強固にしていく必要があると考えています。

そのことを踏まえて、これからの時代、以下の5つの要素がコーポレート部門に属するメンバーにとってより求められてくると考えています。

1.テクノロジーを活用する力
2.外部に頼る力
3.ディレクションする力
4.情報収集力
5.発信力

5つの要素について、さらに詳しく教えてください。

角田:まず1、2についてですが、多様化、細分化するツールやサービスの知識をしっかり身に付け、自社の課題解決のために必要なものを選択し、業務のなかに適切に組み込む能力が必要です。

また3について、外部パートナーに業務を委託することは「業務を丸投げする」ことではありません。組織の目標達成に向かうためには、外部パートナーを“チーム”として捉え、自社の目標を達成するための最適なディレクションを行う必要があります。

そして、数あるサービスのなかから自社に最適なものを選ぶためには、当然のことながら4の情報収集力が欠かせません。同時にその情報収集を助けるのが5の発信力。情報というものは、情報を発信する人により集まってくるものです。例えば私の場合は、SNSでのつぶやきをきっかけに現在お付き合いさせていただいている外部パートナーに出会えたこともありました。

冒頭で触れました通り、基本的には内製で賄うことが多かった多くの会社のコーポレート部門においては、特にこの中では「外部に頼る力」と、それと関連して「ディレクションする力」が足りていない場合が多いのではないでしょうか。

角田氏は、コーポレート部門の管掌役員として、経営企画、人事、広報、経理、財務、法務、総務、内部監査など、バックオフィス機能全般に関わっている。

弱いコーポレートは事業推進のボトルネックになる

なぜ外部に頼る力が必要なのか、詳しく教えていただけますか?

角田:特に当社のようなベンチャー企業の場合、会社を成長させるためにスピーディーに事業を推進していく必要があります。しかしながら、大企業とは異なり、十分な人材が揃っているわけではありません。そのような状況下で内製にこだわり続けていると、コーポレートが事業推進を遅らせる"ボトルネック"となってしまいます。

例えば、法務面での確認作業が遅れて顧客との交渉が進捗しない、サービスが完成したのにPRまで手が回らずにリリースの効果を最大化できない、顧客の希望通りのタイミングで請求書の発行ができずトラブルになるなど、思い当たる節がある方も多いのではないでしょうか。

内製ではカバーしきれない工数やケイパビリティについて、「外部パートナーも含めて一つのチーム」と捉えて積極的に頼ることで、ボトルネックを解消し、スピーディーに事業を推し進めることができると考えています。

時代とともに働き方や業務体系は変化しており、とにかく各専門性を持った社員が内部に揃っていないとコーポレート業務が担えないという時代ではなくなりつつあります。「外部にそんな手段があるなんて知らなかった」などと言っている場合ではありません。

一方、コーポレート部門に対してはコストを割きづらい傾向にありますよね。

角田:そうですね。一般的にコーポレート部門はコストを引き締める立場にあります。そのため、コーポレート部門の業務に対してコストを割いて外部に頼むという発想には、コーポレートのメンバー自身はならないことが多いでしょう。また「コーポレート部門が何をやっているかが分からない」という経営層も多く、コーポレートの重要さが会社として十分に認識されていないことも理由の一つです。

当社もかつては同様の問題を抱えていました。結果的にコーポレートのあらゆる機能においてボトルネックが発生していたんです。

そこでまずはコーポレートの役割を「ミッションツリー」の形で見える化、その期においてコーポレートとして為すべきことを、経営陣からの期待とも照らし合わせながらすり合わせた上で、内製ではどうしてもボトルネックが発生してしまうミッションについて、ツールの導入や外部パートナーの活用をする意思決定を行いました。

前述のように、メンバーからそのような投資の提案をしづらいということは往々にしてありますので、だからこそ経営陣も巻き込んだ上で、あくまで会社の目標の達成のため、事業推進速度の最大化のために必要であるということを、体系立てて明確にすべきだと考えています。

実際にベーシックにて活用された「ミッションツリー」の一例。※画像の一部を加工しております。

外部ツールはあくまでも手段。課題ありきの導入が大切

ツールや外部の活用に向けて、まずは何から行いましたか?

角田:はじめに、業務を「コア業務」と「ノンコア業務」に分けました。コア業務とは、いわゆる“社員が集中して行うべき仕事”のこと。対してノンコア業務は機械的な事務作業を指します。単純なタスクであるノンコア業務に忙殺されてしまうと、社員は本質的なコア業務に集中できません。例えば当社においては、労務・総務・経理・法務などの事務作業の多くを、外部のオンラインアシスタントサービスに委託しています。

また「コア業務は全て社員の力で遂行しなければならない」ということもありません。 いくらノンコア業務を委託して業務に集中できたとしても、社内でケイパビリティが不足している業務は思うように進まないものです。

当社では、士業系の専門会社へ一部委託したり、情報システム機能の立ち上げを委託するなど、社内メンバーの経験値やリソースが足りないときも積極的に外部パートナーを活用するようにしています。

外部パートナーに業務を委託して感じた効果を教えてください。

角田:事務作業を手放せた分、付加価値の高い業務に集中できるようになりました。社員自身も自分がやるべき仕事と、外部に任せる仕事を切り離して考えられるようになったことで、担うべきミッションが明確になったこともメリットです。

またケイパビリティが不足しているコア業務を外部委託することは、後に人材を採用する際の基準を知れたり、その領域におけるマネジメント力の向上につながったりするという効果があったと感じています。まだ自社にケイパビリティがない機能の人材については、そもそも採用するのが難しいですし、仮に採用できたとしても、うまくマネジメントができず結果的に定着しないということも多いですからね。

外部に業務を委託する際の注意点はありますか?

角田:特に業務効率化ツールを導入する際にありがちなのは、ツール導入が「手段」ではなく「目的」になってしまうことです。どのような課題を解決したいのかを明確にせず、「アナログからデジタルに移行したい」「古くなってきたので最新のものに入れ替えたい」という理由だけで導入しても、業務の改善につながりません。まずは現状の課題をあぶり出し、その課題を解決するための手段としてツールを活用することが大切です。

また、「外部に委託したことでコーポレートの業務は効率的になったものの、その分他部署のオペレーションが増加してしまった」、「ある業務は効率化したが、他のシステムの入れ替えが発生し、かえって手間がかかってしまった」というのもよくあるケースですね。常に全体最適になるかを十分検討する必要があるでしょう。

ツール導入はあくまで課題解決の手段の一つ。それが「ゴール」になってしまっては業務改善は見込めない。

「ミッションツリー」でコーポレートの働きがいを創出

コーポレート部門は日々の業務がル―ティーン化してしまうという課題があると思います。御社ではどのようにやりがいを創出しているのでしょうか?

角田:コーポレート部門に属する社員のモチベーション低下や離職の大きな原因は、「日々の業務に忙殺されているのにも関わらず、適正な評価がされないこと」そして「業務を通しての成長も感じられないこと」だと考えています。そのため、まずは前述のように、ツールや外部の活用も行いながらただ忙殺されてしまわない環境を整えつつ、その上で、会社や個人の成長を実感できる「挑戦」の機会を用意し、その挑戦に対する成果に応じた適切な評価と報酬を与える制度を整備しています。

特に、挑戦をしてもらうためにはとにかく「目標設定」が重要なポイントです。そのためにはまずはコーポレートとしての目標や責務を明確にする前述の「ミッションツリー」が重要となります。その上でそのミッションツリーに基づき、社員それぞれに応じた目標を設定しています。

強いコーポレート組織作りには、“挑戦”を促す適切な「目標設定」が鍵となる。

「目標設定」について詳しく教えてください。

角田:軸となるのは先ほどから出ている「ミッションツリー」です。まずはコーポレート全体として目指す姿を定めています。例えば、当社のミッションは「『マーケティングとテクノロジー』で世の中の問題を解決する」ですが、その下にコーポレート部門のミッションとして「『正しくて強い組織』の実現に向けた支援」を設定しています。

その上で、実現のために、各機能として為すべきことに分割しています(現在のベーシックの組織で言うと、人事広報、経営企画、財務IR、経理の4つ)。そして部署のなかで、「大・中・小」の業務カテゴリーに分けてそれぞれミッションを設定。大カテゴリーが「採用強化」なら中カテゴリーは「中途採用」と「新卒採用」、さらに「中途採用」を「採用計画の達成」「採用手法の進化」という小カテゴリーに分けるという具合です。

そこから細分化して、各メンバーに達成してほしい具体的なミッションを割り振ります。ここでのポイントは、ただミッションを渡すのではなく、ミッションを達成した状態を示す「達成基準(5段階)」までも設定していることです。また、「業務を効率化する」というような漠然とした基準ではなく、第三者から見ても分かる定量数値も含めて設定するようにしています。

「ミッション」と「達成基準」をセットで示すことで、目指すべき状態が明確となる。

コーポレートも目標の定量化はできる!

コーポレート部門において目標の定量化は難しくありませんか?

角田:そのように思われがちですが、コーポレート部門においても目標の定量化は可能です。特に「〇月までに、フォーマットを整理する」というように、目標期限を定めることはどの部署でも共通してできますよね。そのほか、「作業時間を〇割削減」「費用を〇割削減」「決算締め日を〇日短縮」という目標も立てられるでしょう。

基準が具体化していると、ミッションをどれほど達成したのかが一目瞭然ですので、適正な評価にもつながります。ここが曖昧な故に、前述のように、「コーポレートは評価されない」「目標がはっきりしていないのでやりがいや成長実感が無い」という声が上がる会社は多いと感じています。

5つの基準による目標の具体化は、達成度合いが明確となるためモチベーション維持にもつながる。

ミッションの細分化と定量化がポイントということですね。

角田:コーポレートにおけるミッションの設定は、ある意味ないがしろにされたり、後回しにされたりすることが多いと感じています。しかし基盤となる仕組みを整えて効率化を進めなければ、いつまでも会社は自転車操業のままでしょう。特にいわゆる「緊急ではないけど重要なもの」をしっかりとミッションツリーに入れ込んで、メンバーがそれぞれミッションを達成していくことが、強いコーポレートを作っていくことであり、事業成長をさせるための肝だと考えています。

なお、5段階で達成基準を制定するとしたら「3」が平均値となりますが、この「3」の難易度設定は難しいものです。難易度があまりにも高いと諦めの気持ちが出てしまうし、逆に簡単すぎると成長を実感できません。“成長と成果を最大化”するためには50%〜70%の確立で達成できる難易度が効果的だと考えております。いかに適切な難易度の設定によって“成長と成果を最大化”できるかは、マネージャー層の力量が問われる部分でもありますね。

また、会社が成長していくにしたがってミッションの内容も変化していきます。特にオペレーショナルな職種においては、業務体制が整備されるにしたがってミッション数が減っていきますし、達成度の段階をつけるのが難しくなっていきます。そうなった場合には、ミッションの達成率ではなく、専門性の高さを細かく評価する「職種別グレード評価」を取り入れるなど、継続的にコーポレートの”成長と成果を最大化”するために、状況に応じた運用が必要です。

角田氏が“特に難しい”と語る「3」の目標設定。適切な指標は個人の成長を牽引する役割をも担う。

ミッションを達成するためにも重要なのが「行動規範」の浸透

コーポレート部門の業務改革がなかなか進まない企業も多いと思います。業務改革をする際のアドバイスはありますか?

角田:お話したようなミッションの明確化に加えて、「行動規範」を明確にして浸透させることが併せて重要だと思います。行動規範とは、その会社で成果を出すためにはどのような行動をすべきかを示したものです。いくら専門性が高い優秀な人材であったとしても、行動規範にそぐわなければ、会社が望む成果を得ることは難しいと考えています。

特にリモートワークという働き方も一般的になっている今、ワークライフバランスがとりやすくなった一方で、業績が落ちてしまったという事例はよく聞きます。一般的にリモートワークの課題としては、リモート環境の整備やコミュニケーション施策が注目されがちですが、併せて重要なのが行動規範の浸透です。基盤となる行動規範が固まっていなければ、いくらリモートワークの環境を整えたとしてもうまく機能しません。

当社では、全社としての行動規範を設定した上で、主に5つの取り組みによる浸透に力を入れてきました。新型コロナウイルスをきっかけにリモートワークに移行しましたが、働きがいや離職率といった指標が改善すると同時に、移行後も業績は上がり続けており、「事業成長と働きがいの両立」を実現することができています。

大きく4つの階層から構成される「仕事の成果」。その中でも行動規範は、成果を出すために「求められる姿勢・行動」として定義されている。

そのほか、行動規範を浸透させるための具体的な取り組みはありますか?

角田:当社の行動規範は、「GOAL ORIENTED」「TRY&LEARN」「TEAM SPIRIT」というワードを設定していますが、内容が伝わらなければ意味がありません。例えば、「2.分かりやすく噛み砕く」の取り組みでは、行動規範を具体的な「行動」にまで落とし込んだ表現にし、会議の場や社内ポスターを利用して繰り返し啓発しています。

また、行動規範に優れた社員に対するMVP表彰も行っています。MVP制度を導入している会社は多いと思いますが、当社の場合は、「その成果を出せたのは、この行動規範が優れていたからである」というように、行動規範と成果をセットにして評価を行っている点が特徴です。表彰者を見た社員が「この行動規範を実行すれば、この人のようになれるかもしれない」と感じて実際に行動する、というサイクルが生まれることを期待しています。

しかし、行動規範をいきなり全社へ浸透させるのは簡単なことではありません。また行動規範のレベルや浸透度自体も往々にして部署ごとにまちまちです。したがって、各部署に行動規範を浸透させるための責任者を設置し、部署ごとに確実に浸透させることを目指しています。浸透度が低い部署の責任者に対しては、それこそ浸透度の向上をミッションに入れることもあります。

行動規範の浸透度はどのように測っているのでしょうか?

角田:全社員に毎月アンケート調査を行い、継続的に状況をモニタリングをしています。そしてアンケートで表れた課題や改善点を洗い出し、行動規範を見直し、再び実行するというPDCAサイクルを回して最適化を図っています。

行動規範はある意味作って満足してしまう場合が多いですが、 浸透しなければ意味がありません。会社やメンバーのフェーズに合わせて適宜調整を繰り返しながら、事業成長のためにはどのような行動が求められるかを伝え続けることが大切でしょう。

行動規範もPDCAサイクルを回して最適化し続けることが、成長の持続性へとつながる。

「正しくて強い組織」を実現するコーポレートに

最後に、御社が目指すコーポレートの在り方について教えてください。

角田:ミッションツリーで掲げているように、「正しくて強い組織」を実現するコーポレート部門でありたいと思っています。そのためにはガバナンスやコンプライアンスを守るだけではなく、どうしたら事業が推進されるかをコーポレートのミッションに入れ込んでいくことが不可欠です。決してボトルネックになることなく、会社および社員の“成長と成果を最大化”できるコーポレート組織であるべく引き続き取り組んでいきたいと思います。

コーポレート部門の基盤をさらに強固にし、これからも当社のミッションである「『マーケティングとテクノロジー』で世の中の問題を解決する」を、着実に達成していきたいですね。

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