採用広報の決定版。社員のフォロワー数は合算6万人、内定承諾率と離職率を大幅改善するSNS活用法

株式会社ベーシック

執行役員 CAO コーポレート本部長
角田 剛史

プロフィール

SNSなどを活用した、企業の採用広報活動が隆盛だ。しかし、DX(デジタルトランスフォーメーション/Digital Transformation)などが浸透し、オンラインコミュニケーションが活発化した中でも、完全にその手法をモノにしている企業は決して多くはない印象である。

その背景には、従業員のSNS利用に対し、消極的なスタンスを取る組織が少なくないという事情がある。個人の不適切な投稿によって企業のイメージが損なわれることを防ぐために、発信には一定の制限を設けたり、誓約書や研修の機会を設けたりする企業もある。良くも悪くもSNSの情報には拡散性があり、企業にとってはリスクの1つとなっているのだ。

しかし、この拡散性を採用広報活動に活かし、SNSを積極的に利用して成功を収めているケースもある。

Webマーケティングツール「ferret One」などを提供する株式会社ベーシック(本社:東京都千代田区、代表取締役:秋山勝/以下、ベーシック)では、社員の3割がSNSの独自アカウントを取得して運用をスタートしてからというもの、社内外での認知度が加速度的に拡大。採用においては、内定承諾率がアップし、離職率が大幅にダウンしたという実績を持つ。

同社、執行役員 CAOの角田剛史氏(以下、角田氏)によれば、「採用競争力のキーワードは、『人材と企業のカルチャーマッチ』である」とコメントする。

では、今回のインタビューから、SNS活用の背景や効果的な運用方法について探ってみよう。

「商品名は知られているが、企業名が知られていない」という危機感からSNSをスタート

——ベーシックでは社員が個人のSNSアカウントを持って全社的に発信を行っています。まず、他社に先駆けてこうした取り組みを始めたきっかけを教えてください。

角田氏:ベーシックは、オールインワン型BtoBマーケティングツール「ferret One」、フォーム作成管理ツール「formrun」、Webマーケティングメディア「ferret」の3つの事業を展開しています。

マーケットではプロダクトの知名度はありましたが、サービス名と社名が結びついておらず、「株式会社ベーシック」という社名があまり認知されていないことを肌で感じていました

そうした状況は、採用活動の問題点にもつながっていました。例えば、求人を出してもなかなか応募が集まらず、また入社後に「カルチャーマッチしなかった」という理由で離職する例も目立っていたのです。

つまり、「採用の応募数」「社員の定着率」、この2点で苦労していました。

そこで、「ベーシックが何をしている会社なのかが知られていない」という点に問題意識を持ち、まず役員5人で、情報の拡散性が高いTwitterに目を付けて始めました

当社の理念やカルチャーに関する情報に触れる機会が増えれば、応募を検討している人たちの背中を押すことにつながり、入社後に「カルチャーのアンマッチ」を避けられるのではないかと考えたのです。

徐々にフォロワーが増え、良いリアクションがあったことから、2019年の4月から全社で取り組みをしようと社員に呼びかけました。今でこそSNS活用と言えば、採用広報でも主流となりつつありますが、当時この手法を採用して実践、効果を出している企業はごく一部でした

「やりたい人がやる」というスタンスで始めたSNSでしたが、現在は約3分の1の社員がTwitterを活用しており、しかも社員のフォロワー数を合算すると約6万人に上ります

社員の積極的な情報発信によって「カルチャーマッチ」する人からの応募が増加

——具体的にどんな情報を発信しているのでしょうか。

角田氏:それぞれの社員がマーケティング、セールス、広報など得意分野についてつぶやいています。プライベートについてつぶやく社員もいます。

一人一人が個性豊かな発信をしており、組織としての影響力が大きくなっていると感じています。

——先ほど「採用」と「定着率」の2つの問題を抱えていたとおっしゃっていましたが、社員の“つぶやき”によってどのような変化があったのでしょうか。

角田氏:まず、会社自体の知名度が上がり、サービス名と「株式会社ベーシック」がセットで認知されるようになってきました。これまでは他社に応募していたであろう人たちが、社員の発信に触れることで、ご縁につながる機会もありました。

そして、最も顕著に表れた効果が内定承諾率の改善でした。

他の採用チャンネルも含めた総母数を考慮すると、応募数が劇的に増えたわけではありませんが、事前に会社の雰囲気や理念などを含めたカルチャーに触れる機会があったことで、カルチャーマッチの可能性を秘めた人材からの応募が増加したことが大きいと思います。

また、離職率の改善にも効果が見られ、最も高かった時期と比べると離職率は3分の1にまで低下しました。早期離職の理由で多かったのが「カルチャーのアンマッチ」でしたが、情報発信により、早期離職の抑制効果が見られました。

内定承諾率の上昇と離職率の低下に相関関係があるとは断言できませんが、SNSの活用によって、どちらにも好影響があったことは確かだと感じています。

継続の仕組みは「やりたい人がやればいい」「とにかく楽しんで」

——社員のTwitter活用のスタートから2年以上経過していますが、多くの社員が現在も積極的に発信されています。これまで継続できている理由はなんでしょうか。

角田氏:当社の場合は、この取り組みを導入するときに「どうしたら継続できるか」という点を熟考して、仕組みづくりをしました。

重視したのは「やりたい人がやる」という点です。Twitter活用の目的を明確にした上で、強制はせず、「とにかく楽しんでもらう」というスタンスを浸透させたことが、結果的に継続につながっていると考えられます。

内容や投稿頻度についても、特に制限を設けていません。というのも、細かく規定することで、社員にとってもフォロワーにとっても「みんな同じことを投稿していて楽しくない」ということが起こり得ると思ったからです。

個々が自由な発信を楽しみながらも、Twitterを通じて得られた成果やメリットについては、社員間で定期的に共有しています。責任者が投稿をやめてしまっては説得力に欠けますから、自分も含めて役員も積極的に活用しています。

あえて「インセンティブ」を設けない理由は?

——影響力の大きいアカウントを持つ社員に対するインセンティブ(特別報酬)などはあるのでしょうか。

角田氏:インセンティブはあえて用意していません。あくまでも「やりたい人がやる」というスタイルです。

インセンティブを設けると、義務感に縛られてフォロワー稼ぎに走ったり、過度な競争をあおったりすることにつながる恐れがあります。自由に、個性豊かな発信をしているからこそ、それぞれのアカウントに独自ファンがいる現在の状態が好ましいと思っています。

個人の裁量に委ねている部分が大きいのですが、フォロワー数などの成果を可視化することで、相互に意識し合い、適度な競争意識は生まれています。

Twitter活用の目的を繰り返し啓発することが「炎上」の抑止力に

——個々の社員が楽しんで発信をしていることが伝わってきました。しかし、一般的な企業では炎上のリスクを懸念して社員のSNS利用を制限している組織もあります。ベーシックでは、どのような炎上対策を取っていますか?

角田氏: 個々が自由に発信しながらも、手段と目的が逆転しないように「何のためにSNSをやっているのか」ということについては、役員も含めて定期的に共有するようにしています。

現在、社員たちのアカウントのプロフィール画像やヘッダー画像は、いつの間にか青のトーンが使われるようになっており、見た目の統一感があります。見た瞬間に「株式会社ベーシックの社員」ということが分かるようにしています。

一人一人が「“ベーシックの顔”として発信している」という意識を持ち、内容を吟味しながら投稿していることが、炎上の抑止力となっています。

また、当社は Webマーケティングのツールを提供する会社なので、それぞれの社員がある程度のSNSリテラシーを有していることもベースとしてあるのかもしれません。

ただし、こうした条件がそろっていても、炎上リスクをゼロにするのは難しいと思います。それでも、大企業ではない当社のような規模の会社は、「やっていることをしっかり伝えていく」ということのメリットの方が大きいと感じています。

——Twitterを活用中の社員の中には、ブログサービスの「note」も併用しているケースも見られます。

角田氏:Twitterには拡散力がありますが、投稿できる文字数は140文字のみです。Twitterでは届けられない思いや会社のカルチャーをnoteでしたためて、Twitterをその拡散手段として使っている社員もいます。

ただ単に「拡散されて多くの人たちに読まれたらいいな」というのではなく、「ベーシックのカルチャーを知ってもらう」という点ではTwitterと目的は同じです。

採用過程で「こういう思いを持っている面接官がいるので、事前にぜひこの“note”の記事を読んできてください」ということも定常的に行っています。

SNSと親和性が高いベーシックのユニークな制度

――社員のSNS活用も含め、ベーシックには「ゴールデンウィーク選択制」や「1時間単位の有給」などユニークな制度が多くあります。社内外の反応はいかがでしょうか?

角田氏:当社の一風変わった制度は、メディアで取り上げられることもあります。

たとえば、コロナ禍初期の2020年の春、他の企業に先駆けて「オンライン飲み会」の補助金制度を導入しました。そのころは、まだ「オンライン飲み会」という言葉が浸透していなかったので、一時的に注目を集めました。

こうした取り組みは、話題作りのためになんとなく行っているわけではなく、SNSの活用と同様に「何を目指しているか」という点を明確にしてから導入しています。

「オンライン飲み会」は一例にすぎませんが、コミュニケーションが減ったことで、組織への帰属意識やチームワークが薄れ、社員が孤独を感じる傾向が見られたので、チームワークを取り戻すことで事業推進につながるのではないかと考えて導入しました。

また、リモートワークを実施する会社にとっては、仕事の有無と外出の抑制には相関が無いという仮説の下で設計された「ゴールデンウィーク選択制」なども、上記のコンセプトと同様の思想で導入しています。

いずれにしても、制度導入のスピード感や柔軟性については、社員から良い反響が得られていると感じています。

制度設計に関しては、ただ「社員に優しい」ということではなく、「その制度を導入することで、社員の働きがいや生産性はどう向上するのか、その上で会社としてどう成長できるのか」ということを大事にしています。

——最後に、今後の組織づくりの展望をお聞かせください。

角田氏:コロナ禍で、ベーシックが提供する企業向けのWebマーケティングツールが高く評され、昨年度のサービスの導入数は大幅にアップしました。

BtoB事業のセールスやマーケティングの領域では、以前のように「足で稼いでなんぼの世界」「展示会をすればなんとかなる」という状態には戻ることができないステージにまで来ています。ただし、Webマーケティングに取り組もうとしている企業が急激に増えていますが、その実態としては多くがまだ上記の状態を脱却しきれていません。

当社では「マーケティングとテクノロジーで世の中のあらゆる問題を解決していく」という点をミッションとしています。

このミッションの実現のため、「社会課題を解決するための会社や事業の成長」、「その成長を担う社員の働きがい」、この2つをいかに両立して最大化するのか、という観点で、組織づくり及びそれに紐付く制度づくりをこれからも行っていきたいと思います。

【取材後記】

ベーシックは、会社として目指すところを社員に明確に示し、ゴールに到達するための手段として、新しい制度を導入するスタイルが特徴的だ。現在もユニークな社内制度や施策をスピーディーに打ち出し、柔軟に変化している。

今回取材したSNSの活用についても、社員が会社の顔として投稿の自由を楽しみながら、SNS活用の目的やメリットを社員間で定期的に共有していることがわかる。そうした視点で個々のアカウントの投稿を見ると、一人一人の個性が色濃く表れた投稿内容から一体感が浮かび上がってくる。

社員が発信した情報が届くべき層に届くことで、採用する側と採用される側のいずれにも良い結果をもたらしていると言えるだろう。

取材・文/鈴政武尊・北川和子、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部

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