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【寄稿】ベーシック川鍋裕輔「リモートワーク移行後に成果に繋がった施策とニューノーマル時代におけるBtoBマーケティングの考え方」

最終更新日:2022.04.12

新型コロナウイルスの影響により企業でリモートワークの導入が進み、セミナーや展示会のオンライン化など、2020年はマーケティング手法にも多くの変化がありました。今年2月の時点ですでにリモートワークを推奨していた株式会社ベーシックでは、およそ半年間の取り組みで試行錯誤を重ね、コロナ禍以前より高い水準の成果をマーケティングで上げています。

そこで今回は、株式会社ベーシック SaaS事業部 マーケティング部 部長の川鍋裕輔さんに、リモートワーク移行後に成果に繋がった施策と、これからのBtoBマーケティングで重要な考え方についてご寄稿いただきました。

【寄稿】

新型コロナウイルスの感染拡大の予兆を機に始まった全国的なリモートワークへの移行。早いところでは既に約半年が経ち、BtoB事業を行う企業を取り巻くマーケティング環境は大きく変わりました。

リアルでの展示会はほぼ無くなり、オンラインマーケティング、特にコンテンツマーケティングがオンライン上で潜在層にアプローチでき、なおかつ顧客のニーズを育てられるという理由で再度脚光を浴びています。そしてBtoB企業におけるリード獲得のメイン施策の1つであるオフラインセミナーもその多くがウェビナーへと形を変えました。ウェビナーへの参加申込数は大きく増加したものの従来のオフラインセミナーと比較すると検討度合いの低いリードが増えた企業も少なくないでしょう。

また、社員の出社を前提としたオフィスビジネスなど、業界によってはビジネスモデルそのものを大きく変えざるを得ない企業も出てきています。

では、この半年間でBtoBマーケティングの現場ではどのような変化が起こったのか。弊社ferret Oneチームの具体的な取り組みを紹介しつつ、改めてこのタイミングでニューノーマル時代におけるBtoBマーケティングのあり方について考えてみます。

(文・株式会社ベーシック 川鍋 裕輔)

目次

リモートワーク移行後に取り組んだこと

まず、この半年間の大きな外部環境の変化の中で、成果に繋がった施策について整理したいと思います。

なお、先にお伝えしますと、これから取り上げる取り組みによって弊社マーケティングチームの成果は半年前に比べて230%の水準となっています。

1.市場ニーズの変化に対応したサービス訴求軸への変更

1つ目はサービス訴求の変更です。この半年間の取り組みのなかで最も大きく成果に繋がりました。世の中のビジネス環境が大きく変化した今回のようなケースでは、これまで売れていたものが売れなくなり、反対に売れていなかったものが売れるようになることもあります。これはBtoBビジネスに限らず言えることで、在宅需要によりデスクやディスプレイなどのデスクワーク用品あるいは運動不足解消のための自転車が売れたり、通販やフードデリバリーの取扱量が大幅に伸びていたりします。

我々の提供するサービスであるferret Oneは、ノンコーディングで編集できるCMSをベースとしたマーケティングツールです。従来はサイトのリニューアルや新規立ち上げの際に導入することで、ページの作成や修正、サイトコンテンツ更新の手間とコストが大幅に削減され、マーケティング施策のPDCAを素早く実行できることにメリットを感じ、導入いただくことが多くありました。

しかし、コロナに端を発する今回の環境変化により、導入の経緯として多かったサイトリニューアルや新規事業については計画そのものが見直されたケースが少なくありません。

一方、既存事業においては予定していた展示会の出展を取り下げたことでマーケティング予算が浮いたり、オフラインチャネルが活用できなくなったりしたことからオンライン(Web)マーケティングに取り組みたいというニーズが大きく高まりました。

上記のようなニーズの変化は実際には後からわかったことですが、これに対して我々が取り組んだ施策として「広告コピー100本ノック」があります。まず市場のニーズにどんな変化があるのかを把握するために、3月上旬から4月にかけてディスプレイ広告用に複数のコピーだけを作成しテストする取り組みを行いました。その上で訴求軸の洗い出しと訴求軸ごとに大量のコピー作成を行い、有効そうなものを選抜していくための作業です。実際に広告で配信したのは20クリエイティブほどですが、原案としては100本ほどのコピーを作成しました。

このテストによって「手軽に更新できるCMSを探したい」「マーケティングノウハウを身につけたい」といった、「広告コピー100本ノック」施策の実施前に想定していたニーズよりも、「オンラインでリードを獲得したい」というニーズが高まっていることを確認できました。

この結果から、4月の後半以降はリード獲得ができるという訴求を中心にクリエイティブを展開し、コロナ前と比較してCPAを最大40%削減することができました。

図:編集部作成

2.インサイドセールスとの連携と提供プランのアップデート

2つ目はコンテンツや広告運用を担当するマーケティングチームとインサイドセールスチームの連携です。当然ですが、上述のように広告での訴求を変更すると、それに応じてインサイドセールスによる顧客への提案ストーリーも変わります。具体的に言うと、「CMSを探しているユーザー」と「リード獲得をしたいユーザー」では提案のストーリーが異なるわけです。前者であればユーザーの課題に合わせたCMSの活用方法を提案しますし、後者であればリード獲得のためのツール活用方法を提案します。

弊社では毎週マーケティンググループとインサイドセールスグループで、訴求別、チャネル別、業種別、従業員規模別の商談化率やSQL(Sales Qualified Lead)化率などの指標を共有し、オンライン商談までのストーリーのアップデートを行っています。サービス接触(訴求やクリエイティブ)から架電時のヒアリング、オンライン商談に至るまでのストーリーを一気通貫したコミュニケーションにするためです。こうしたマーケティングチームとインサイドセールスの”密”な情報共有が、Web上のコンバージョンでビジネスが完結しないBtoBマーケティングにおいては非常に重要な要素です。

今回の外部環境の変化のなかでオンライン商談までのストーリーの検討を進めるにあたり最も大きな課題となったのは「顧客が意思決定をしづらくなったなかでどのようにSQLを増やすか」ということでした。

景気の動向が不安定となり、先々の事業の見通しが立ちづらくなると、当然事業への投資が慎重になります。数カ月先の事業のマイナス影響すらはっきりと見えない中で、課長以上の決裁額が一時的に縮小、もしくは0になった企業も多いと思います。これまで100万円の意思決定ができていた役職の人でも、会社の事業状況を踏まえた慎重な投資判断が求められています。

このように顧客が意思決定をしづらくなったことを受けて、弊社では2つの取り組みを行いました。

1つは、検討ステータスにある顧客の細分化です。コロナ禍で、初回商談後にすぐにSQLとはならないものの、失注でもない案件(ニーズはフィットしていて時期が未定)が増えました。従来は、こうした案件をどのように進めていくか、案件毎に次回アクション時期とアクション内容(課題整理や、事例の提示など)を決めていました。

しかし、初回商談後すぐにSQLとはならないものの失注でもない案件が増えたことで優先順位をつける必要が出てきたため、既存の施策から予算をスライドできそうな顧客と新たに予算を組まなければならない案件を分け、前者に対して優先的にアクションすることにしました。

そしてもう1つは意思決定しやすい金額感のプランを新たに用意したことです。従来のプランでは年間300万円前後の導入費用がかかっていましたが、この新たなプランは予算の見通しが立ちづらいなかでコンパクトにオンラインマーケティングへの取り組みを開始したいというニーズに応えるために、200万円以内で初期の構築から年間のツール利用までできるプランを新たに提供することとしました。

これらの2つの取り組みで一時期停滞していたSQL化が進み始めました。

図:編集部作成

3.オフラインセミナーからウェビナーへの転換と高速PDCA

3つ目はセミナーのコンテンツ刷新です。

弊社では従来からオフラインセミナーとウェビナーを並行して行っていましたが、リモートワークの広がりとともに気軽に参加できるウェビナーへの参加者数が大幅に増え、従来のオフラインセミナーと比較して1回あたりの集客数が3〜5倍になりました。一方でウェビナーへの参加をきっかけに実際に導入検討に進むリードの率は大きく減少しました。コロナ前には、毎月4~5回開催するオフラインセミナーのなかでコンスタントに受注を生み出していましたが、緊急事態宣言直後の4月には受注貢献数が0になってしまいました。

そこで、ウェビナーに参加しているユーザー層の分析やアンケート結果を踏まえ、ウェビナーのコンテンツをアップデートしました。人数だけで見るとノウハウを聞きにきた方が多いのですが、その中に少数ながら含まれる「ツールの活用方法や活用事例を具体的に知りたい方」をターゲットに絞り、ウェビナーのコンテンツを「BtoBマーケティングのノウハウや考え方」から「ferret Oneを使って各導入企業や弊社自体がどのように成果を上げたか」に変更しました。

結果的に参加者全体を分母とした時のSQL化率は下がりましたが、6月にはSQL獲得数において過去最高の件数をあげることができました。オフラインセミナーなどでも全体に話しかけるより耳を傾けている人にピンポイントで語りかけるほうが上手くいくと聞きます。多くの参加者がいる中でもターゲットを明確にし、メッセージを伝えることが重要だと考えます。

ニューノーマル時代におけるBtoBマーケティングの考え方

ECサイトのCVRを高める最も大きな変数は「売れる商品を並べる(仕入れる)こと」だと言います。これをBtoBの事業にあてはめると、「サービスそのものを売れるサービスに変化させること」だと思います。しかし、弊社のようなSaaSベンダーはプロダクトそのものを短期的に変えることは難しいので、売り方(パッケージ)を変化させました。

また、当たり前のことかもしれませんが、有事の時こそ課題をマクロとミクロで捉え、一つ一つインパクトの大きそうなところから打ち手を打っていくことが重要です。今回ご紹介した弊社のケースでは、ニーズの変化の検証と課題の細分化、ターゲットの明確化が成果に繋がったと言えるでしょう。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、BtoBマーケティングがオンラインにシフトしていくのは自明です。弊社の調査でも72.8%のマーケティング担当者が「今後のBtoB企業のマーケティング活動はオンラインにシフトしたい」と回答しました(出典:『新型コロナウイルスの感染拡大によるWebマーケティング活動の変化に関する調査』)。今後オフラインでの展示会が再開されても従来と同程度の集客は見込めず、顧客の情報収集もオンラインが中心となり、これまで以上にWebサイトで情報を集め、オンラインで商談をし、購入後もオンラインコンテンツでサポートしていくようになっていくでしょう。

実際にferret Oneの導入企業でも自社でオンライン展示会を開催したり、Webサイト上でバーチャル工場見学を実施したり、コロナ特設ページなどのコンテンツを設けたりと、オンラインでも十分にサービスの魅力や特長をアピールしている企業が増えています。

それらの変化を踏まえながら、ニューノーマル時代におけるBtoBマーケティングで重要なポイントを最後に3つにまとめたいと思います。

1.営業担当者と接触する前に発注先が決まる確率が高まる

リモートワークへの移行により、従来はオンラインだけでなく営業担当者の訪問営業をはじめとするオフラインを経由して行われていた顧客の情報収集が、オンラインで完結するようになります。これまで営業担当者から直接プレゼンを受けて発注の意思決定をしていた商品/サービスについても、オンライン上のコンテンツだけである程度比較検討され、場合によってはそれだけで発注先が決まるケースも増えていくことが予想されるでしょう。そのため、顧客の商品検討フェーズにおけるオンライン上のコンテンツの重要度がより増すと考えます。

2.会社やサービスにおける信頼の重要性が高まる

これまでのBtoB営業では、オフラインでの接点が多いゆえに、会社やサービスの信頼度だけでなく営業担当者への信頼度が購買の意思決定に大きく影響を与えていました。しかし、オフラインでの接点が減り、オンライン上だけの関わりとなると、オンラインでの接触の特質上、営業担当者のスキルによって得られていた信頼が得にくくなります。そのため、営業担当者への信頼よりもサービスそのものの実績やサービス提供会社の信頼がより重視されるようになるでしょう。

3.オンライン商談のスキルが重要になる

従来行われていた商談のオンライン化は避けられません。オンライン商談のスキルは対面での商談スキルとは異なります。対面で行う際の商談は営業担当者と目を見ながら会話をして進みますが、オンライン商談の場合は必然的に顧客が資料を見ている時間が長くなるため、直接対面で行われていた商談とは営業担当者が評価されるポイントが異なり、端的でわかりやすい資料、事前のアジェンダ設定、商談中のスマートな所作などができる人がより多くの受注を獲得できるようになっていくでしょう。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、期せずしてBtoBマーケティングやビジネスのオンライン化が一気に進みました。国内の営業職人口も年々減少する中、各企業にとってデジタルトランスフォーメーションの推進による生産性向上、事業活動のデジタル化は避けて通れません。しかし、「顧客の課題を把握して製品が売れる状態を作る」というマーケティングの本質はこれからの時代も変わらないでしょう。

オンラインの時代だからこそ、顧客をより知る努力をし、オンラインでも顧客がサービスを検討できるだけのコンテンツを発信することが大切です。そして、顧客ニーズの変化にもいち早く対応できるようにWebサイトのコンテンツを柔軟に修正できる環境を作っていくことはもちろん、組織作りにおいても外部環境の変化にポジティブに立ち向かえる柔軟さが重要だと考えます。

終わりに

今回の外部環境の大きな変化を受けてマーケティング戦略を見直している企業も多いでしょう。弊社のここまでの取り組みは功を奏しているようにも見えますが、市場環境は時々刻々と変化しています。我々もこの先の変化をしっかり見極められるよう定量情報と定性情報のどちらにもアンテナを高く張り、事業運営を行っていきたいところです。

 

Profile
川鍋 裕輔(かわなべ ・ゆうすけ)
株式会社ベーシック SaaS事業部 マーケティング部部長。
2006年、リクルートHRマーケティング(現:リクルートジョブズ)に入社し求人広告の営業として3年半従事。その後株式会社SpeeeにてSEOコンサルタントを務めた後、2010年に株式会社ベーシックに入社。新規事業開発室にてアプリ関連事業や広告関連事業の新規事業立ち上げとグロースを行い、事業売却も経験。2019年より「ferret One」のマーケティング責任者を務め、マーケティングメッセージの変更とサイト改善により1年間でMQLを約7倍に拡大。

 

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