「欲しい人材を獲得」を叶えた採用ブランディングの秘訣とは

2019/8/9
8月1日にNewsPicks Brand Designが主催したイベント「“心が震えるストーリー”で実現するバリューフィット採用」。企業の採用担当者など40名が参加し、企業も働く人材も、互いが満足できる採用を考えるイベントの様子を前後編に分けてお届けする。

前編は、NewsPicksジョブオファー掲載企業の事例として、ベーシック代表取締役・秋山勝氏、一休執行役員・植村弘子氏、同管理本部人事担当・井上尚也氏による、2つのセッションを中心にレポートする。(全2回)
 WEBマーケティングのベンチャーとして、BtoB事業を中心に存在感を示しているベーシック。マーケティングのプロとして知られる代表取締役の秋山氏が登壇し、マーケティングと採用の共通点、採用におけるチャネルの活用などについて語った。

Marketing is Love!

秋山 私が代表を務めるベーシックは、企業向けにWEBマーケティング支援を行っている会社です。今回はマーケティングの概念を採用にどう活かすか、弊社の例を交えながらお話しさせていただきます。
 マーケティングと採用というのは、まったく同じだと思っています。NewsPicksの「ジョブオファー」の記事で、私は「Marketing is Love」というのを提唱しているんですが、これは採用にもあてはまること。
 「Love」という観点で考えてみてください。「意中の人に関心を持ってもらうためにどうしますか?」というシンプルな問いへの答えが、マーケティングであり、採用です。
 そのときに間違えてはいけないのが、「一方的に言いたいことだけ言う」ということ。これでは、恋愛でもモテません。意中の対象の注意を引きつけ、関心を持ってもらうためには、どんなメッセージを打ち出すのが有効か。それを考えることが必要です。
高校卒業後、企画営業職として商社に入社。1997年、グッドウィルコミュニケーション入社。物流倉庫の立ち上げやEC事業のサービス企画を担当。2001年、トランス・コスモスに入社し、Webマーケティングの新規事業など事業企画を手がける。2004年ベーシックを創業。オールインワンマーケティングツール「ferret One」、国内最大級Webマーケティングメディア「ferret」や「フランチャイズ比較ネット」などのメディア事業を展開。

メディアやSNSで狙った層に接触する

 一般のマーケティングと同じで、採用においても接触回数の多さが重要です。一方で、採用担当者が会いたいと考えている人たちは、ほとんど採用マーケティングに現れてきません。
 では、どうやって、狙っている人たちに向けての露出を高めていけばいいのか。答えは、いろいろなメディアやSNSをそのチャネルに合わせたコミュニケーションで活用していくことです。
 ベーシックでも、採用プロモーションのためにさまざまなツールを使い分けています。採用専門の媒体もありますが、今、私たちが一番力を入れているのがTwitterです。

多様なチャネルで発信する意味

 採用専門媒体だけでコミュニケーションしようと思っても、求める人材像と出会えるほど、採用マーケットは簡単なものではありません。
 採用媒体以外のツールとしてTwitterを重視することで、一般にはまだ知名度が低いベーシックを、「あそこでベーシックの名前を見たことがあるな」というきっかけにしていくのが狙いです。
 このように、さまざまな場所で発信していくことは、採用戦略上とても重要だと考えています。
 ベーシックのTwitterの取り組みは、社員が自発的に始めたものです。これは、「中、つまり社内が温まっている」からできたことだと自負しています。
 採用において、外面だけよくて、中が冷え切っているのであれば、結果的にうまくいかないでしょう。
 noteでの発信にも力を入れていて、ここでは我々の考え方、フィロソフィーをいろいろな切り口で伝えています。そこで重視しているのが、「首尾一貫している」こと。これはコミュニケーションを設計していく上で、かなり重要なものとして位置づけています。
 もう一つアドバイスするとしたら、優秀層の採用には経営陣を巻き込むことですね。そういう人材の採用を人事だけで完結しようとするのは、難しいと思います。

対談記事で自社の哲学に共感を得る

 今回、NewsPicksの採用コンテンツ「ジョブオファー」に取り組んだのは、我々がリーチしたい層にベーシックを知ってもらうというのが一番の目的でした。記事ではマーケターとして著名な長瀬次英氏と対談。
 長瀬氏にベーシックのマーケティング戦略に共感いただけたことは、我々の会社の認知向上だけでなく、自信を再確認するという意味で、非常に効果があったと思っています。
 こうした記事になることのメリットとして、どんどんシェアされていくというのがあります。それが我々の会社のカルチャーをより広く知ってもらうことになり、優秀な人材の採用確度を上げてくれる──そういう手応えを確かに感じました。
 2社目の事例紹介は、昨年8月に、NewsPicksで4本の連載記事と採用イベントを実施した一休だ。
 ヤフー取締役・小澤隆生氏、一休CEO・榊淳氏、20代若手社員、それぞれへのインタビュー記事に加えて、榊氏による「もしあなたが一休CEO榊淳の右腕だったら」というワークショップ型イベントを開催。
 イベントレポート記事も含め、大きな反響を呼んだ。一休で採用を担当する執行役員植村弘子氏と管理本部人事担当の井上尚也氏が、NewsPicksとの一連の企画を振り返る。

欲しい人材と応募者とのギャップに悩む

植村 私は一休に入社して14年目。営業やコールセンターの立ち上げを経て、今は執行役員として人事を担当しています。
 まず、これまで一休が抱えていた採用の課題についてお話しすると、「応募はたくさんいただくが、我々が欲しい人材と大きなギャップがある」ということでした。
 「一休.com」はラグジュアリーなイメージがあり、そういう世界観に憧れて応募してくださる方が多かったんです。しかし、会社そのものはゴリゴリのベンチャー。応募者と我々の採用人材像がまったく噛み合っていないんです。
 そんな悩みをずっと抱えていたのですが、私自身もファンであったNewsPicksの読者なら、私たちの求める人材に近いのではないか、私たちの思いが刺さるのではないかと思いついたのがきっかけです。
2006年入社。レストラン事業、宿泊事業のセールス、マネージャーを経験後、カスタマーサービス部へ異動。コールセンターの立ち上げなどを経験後、2016年より人事を管掌。

一休の真の姿を理解してもらいたい

植村 結果として、今回の一連の記事やイベントは、非常に満足度が高いものとなりました。その理由は、うちの魅力を引き出していただけたということが大きいですね。それは社外に向けてという意味合いだけでなく、社内にとっても、です。
 一休は3年前にヤフーの子会社となるという大きな変化を経験しています。シリーズ1回目のヤフーの小澤さんの記事からは、一休の買収や榊についてどう思っているのか? 私たち社員も知りたかった小澤さんの本音を読み取ることができました。
 一休のCEOである榊についても、何を考え、一休をこれからどうしていこうとしているのか。読者だけでなく、社員にも記事という形で伝えられたインパクトは大きかった。
 私たち一休の社員は「榊と働いていることが私たちの最大の福利厚生だ」とよく言っているんです(笑)。それほど魅力にあふれる榊という経営者の思想、若手社員のやりがいやリアルな姿をきちんと記事で表現してもらえました。
NewsPicksでのインタビューが使われた会社案内リーフレット

イベントでリアルな一休をさらに知ってもらう

植村 一連の施策の中でも存在感を示したイベントですが、当初の予定にはありませんでした。
 NewsPicksの担当者と企画についてディスカッションする中で湧き上がった思いが「生の榊に会うことで、本当の一休をもっと知ってもらおう」──その手段として、実現に向けて進めることになりました。
井上 このイベントでは、「参加者のみなさんに疲れて帰ってもらう」というのが目標でした。
 参加者に疲れてもらう、というのはどういうことか。一休は、毎日、これでもかというくらい考えて、考えてを繰り返す会社なのでそれを体験してもらおうと。正直、しんどいです(笑)。
2016年入社。レストラン事業部新規営業を担当後、2017年一休を退社。起業、サービス立ち上げを試みるも断念。2018年一休へ出戻り、管理本部人事担当に。
 記事の中では「謎の情熱」という表現をしていますが、これが一休のカルチャーでもあります。
 そのカルチャーをイベントで表現できないと意味がないし、むしろ、疲れるほど考えてることを楽しめる人材に来てもらいたかったんです。

細部にこだわり、伝わることを目指す

植村 取材記事やイベントを通じて、榊自身、「自分で話すと伝わる」ということを実感できたようです。これ以降、社内でも同じようなイベントを勉強会として行ったり、他社とコラボして同様のイベントを組むことが増えました。
 それまで表に出ることに積極的でなかった榊が、今ではあちこちからオファーを受けるようになり、登壇の機会も増えています。
井上 イベントでは、社員も参加者の皆さんと交流し、限られた時間で一休をよく理解してもらえるように全力で取り組みました。
 細かい部分ですが、ケータリングも「赤坂スペシャル」とネーミングして、弊社のある赤坂界隈のグルメでそろえたのもそのひとつです。
 ピザにまで「ユーザー・ファースト」や「トライ&エラー」という一休らしいフレーズを盛り込んで、弊社のカルチャーを感じてもらえるように工夫しました。
 大雨の中、4時間を超えるイベントでしたが、参加者の多くの方々から「非常に満足した」とフィードバックいただきました。
昨年9月にNewsPicks読者限定で開催された、一休のケーススタディから榊氏の経営思考を学ぶワークショップ。CEO榊氏と一休社員たち、参加者たちのディスカッションは白熱し、予定時間を超えた

活躍する人材の採用を実現

井上 最終的な採用結果ですが、目標5名に対して3名を採用。では、この3名がどういう人材かというと、まだ入社半年から1年未満にもかかわらず、全員が素晴らしい実績をあげています。
 大阪支社で支社長の右腕となっている者、ラグジュアリーホテル部門で次期リーダーのポジションにいる者、レストラン部門で新規開拓の目覚ましい結果を出している者。
 我々が期待した以上の活躍をしてくれる人材の採用ができました。NewsPicksの記事とイベントで、一休のバリューをきちんと伝えて、理解してもらえたおかげです。
植村 1年以上たった今も、採用に応募してくれる人のほとんどが、「NewsPicksの記事を見ました」と言ってくれています。私たちの想像以上に、記事が採用広報として拡散している。ある意味、そこに一番効果を感じています。
井上 今は、「もっと一休を理解して、一緒に走りたい」という方の応募が増えましたね。
 このプロジェクトが成功したのは、僕たちもNewsPicksも、心底、本気で取り組んだから。お互いがそれだけ覚悟と決意を持って挑戦することで、一休の真の姿を皆さんに知っていただけた。そして、優秀な人材獲得という結果に繋がりました。
 NewsPicksと組んだ目的であった「採用のギャップ」を埋めるというのは、間違いなく解消しつつあります。
(編集:奈良岡崇子 撮影:大畑陽子 デザイン:堤香菜)