【組織が変わる】採用力向上のために、経営層と人事が今すぐやるべきアクションとは

2019/8/16
8月1日にNewsPicks Brand Designが主催したイベント「“心が震えるストーリー”で実現するバリューフィット採用」。前編では、NewsPicksジョブオファー掲載企業2社のセッションを中心にリポートした。

今回は、プロピッカーでもあるラッシュジャパン人事部長の安田雅彦氏をスペシャルゲストに迎え、ベーシック代表取締役の秋山勝氏、一休執行役員CHRO管理本部長の植村弘子氏らのメンバーで行ったパネルディスカッションの模様をお伝えする。

採用力向上のために、人事が取り入れるべき思考法は何か。事前に参加者から募った3つのテーマについて語り合った。(全2回)
──採用力向上の課題のひとつに「経営層と人事の課題認識のギャップ」があります。それについてみなさんの経験やご意見を伺えますか。
安田 ラッシュジャパンで人事責任者をしている安田です。私はずっと人事畑で、外資系ではラッシュが4社目です。
 私は「ビジネスのキードライバーは“人”である」と考えています。人の成長がビジネスを伸ばしていく。これまでも、そういう観点で会社を選んできたので、自分自身として、経営と人事のギャップに戸惑うという経験はほとんどありませんでした。
 ただ、実際には、「予算が取れない」「上に理解してもらえない」と、ギャップに悩む採用担当者は少なくない。そういう会社は「ビジネスの中心に人を据えてない」といえるかもしれません。
安田雅彦(やすだ・まさひこ)/ラッシュジャパン 人事部長
西友で人事採用・教育訓練を担当、子会社出向の後に退社、2001年からグッチグループジャパン(現ケリングジャパン)で人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年ジョンソン・エンド・ジョンソンでHR Business Partnerを経て、2013年アストラゼネカへ。2015年からラッシュジャパンで現職。
植村 私は一休でCHROという立場にいます。経営と人事の温度差ということでいうと、CEOの榊との間にそういうギャップは全く感じていません。一休は組織カルチャーとして上下ではなく、横に広がる組織というのも大きいです。
 榊からは、「自分たちがいいと思うことはどんどんやるように」と言われています。だからといって、採用は人事任せなわけではありません。
 実は、一休ではマーケティングとデータサイエンスの一次面接をCEOの榊自身が担当することもあります。それほど、経営における採用のプライオリティが高いということです。
 そうはいっても、人事と経営がすごく遠い会社がたくさんあるというのも、よく理解できます。
秋山 私はベーシックの経営者として、一人を獲得するためのコストというよりも、その人を採用することで得られるインパクトを重視しています。
 採用担当者は短期的なKPIを追いかけがちでが、経営は長期的に見ています。ですから、うちの場合、人事が既存のやり方に固執していると、「それは違うんじゃないか」と僕から意見を言うこともあります。
 ベーシックらしいやり方を経営、人事、広報が一緒になって徹底的にディスカッションして考える。それがベーシックの採用への向き合い方です。
秋山勝(あきやま・まさる)/ベーシック代表取締役
高校卒業後、企画営業職として商社に入社。1997年、グッドウィルコミュニケーション入社。物流倉庫の立ち上げやEC事業のサービス企画を担当。2001年、トランス・コスモスに入社し、Webマーケティングの新規事業など事業企画を手がける。2004年ベーシックを創業。オールインワンマーケティングツール「ferret One」、国内最大級Webマーケティングメディア「ferret」や「フランチャイズ比較ネット」などのメディア事業を展開。

「本当に欲しい人材」に刺さるもの

──本日の参加者は、半分くらいが「経営と人事のギャップを感じている」ようです。参加者からの質問に「どういうことに触れてもらうと、自社に本当にマッチする人材が採用できるのか」というのがありますが、そこも経営と人事の捉え方に差があるのかもしれません。
安田 ラッシュには、「ハッピーな人がつくったハッピーなソープが、世の中を幸せにする」というコンセプト、そして「常に倫理的であることを利益よりも優先する」という確固たるポリシーがあります。その信念こそが、自社に合う人材を獲得する試金石です。
植村 一休の場合、応募者に理解してもらいたいのは、「ユーザーファースト」に尽きます。ユーザーファーストや顧客第一という言葉は、どこの会社でも言われるものですが、一休の場合、本当にすべての基準がそこにあります。
 例えば、ミーティングでも頻繁にユーザーファーストという言葉が出て、それを軸に議論し合う。
 「それはクライアントファーストであって、ユーザーが喜ぶことではないならやるべきではない」「ユーザーファーストというより社員ファーストなのではないか」とか。それくらい私たちに、ユーザーファーストという思いが根付いています。
 求人記事でいくら「ユーザーファーストの会社です」と語っても、本当のところは伝わらない。私たちが欲しいのは、本気でユーザーファーストを考えられる人、そのために、失敗を恐れずトライし続けられる人です。
 そういう失敗であれば許してくれるカルチャーの会社だと、しっかり理解してもらうようにしています。
植村弘子(うえむら・ひろこ)/一休執行役員CHRO管理本部長
2006年入社。レストラン事業、宿泊事業のセールス、マネジャーを経験後、カスタマーサービス部へ異動。コールセンターの立ち上げなどを経験後、2016年から人事を管掌。
秋山 会社の方針が首尾一貫しているというのは、非常に重要な要素だと思います。
 我々は新卒向けに、「日常の違和感に対して問題を定義し、解決を考える」というイベントを行うんですが、そこで伝えたいのは、「日常にある問題を我々の事業で解決していこう」というメッセージです。
 我々の事業を通じて、常に問題解決を考える人材を増やしていくことは、最終的に世の中に貢献していく。そういう私たちの思いを徹底的に伝えていくようにしています。

会社の価値観を人事はどこまで理解しているか

安田 そういう揺るぎない価値観を人事担当者がきちんと認知していることが、これからの人事にとってすごく大事になってきます。フィロソフィーが抜け落ちたまま、いくら採用向けにストーリーを無理やりつくっても、結果はついてきません。
──ストーリーを外向けにきれいにつくっても、それが本質的でなければ見破られてしまいます。特にNewsPicksはコメント欄があるので、読者はシビアに見ています。そこはクライアントともしっかり詰めているポイントです。
秋山 内側からにじみ出てくるものを、脳みそがちぎれるくらい考えて、オリジナルの言葉に変えていくこと。それは採用に限らず、企業として今の時代、もっとも求められています。
──2つの目のテーマとして、「採用の費用対効果」という点についても考えていきたいと思います。マーケティングの視点から、採用の費用対効果について、秋山さんはどのように見ていますか?
秋山 ベーシックという会社はマーケティング思考なので、当然、採用の費用対効果をしっかり見ています。ただ、それも状況で変わるものというのが、正直なところです。どういう人材を採用するのかで考えると、お金を使うか、時間を使うかのどちらかでしょう。
 「人」をリソースとして捉えるか、長期的な成長ドライバーとして見るかで、同じ人に対しても、評価は変わってきます。
 その人を、給与体系のどこに組み込むべきなのか。そこは経営のほうが先を見て考えていると思いますし、それが経営と人事の課題感のギャップにもつながっているのかもしれません。
植村 私が人事に移ったときに、一休の人事のやっていることをイチから見直したんです。そのときに採用エージェントに30%のフィーを支払っていると聞いて、ものすごく衝撃でした。
 一休は数パーセントのコミッションビジネスをしているのに、採用フィーで30%を支払うという数字にものすごく違和感を持ってしまった。
 ここから、もう一度、本当に一休に必要な採用というのはなんだろうととことん考えるようになりました。

採用エージェントは本当に価値があるのか

安田 今、ラッシュの社員は2000人で、その大半を求人広告で採用していますが、本社の重要ポジションはこれまでエージェント採用をしていました。
 しかし、この7月の新年度からは、原則として、エージェント採用は行わないと決めました。その理由は、エージェント採用にほとんど価値を感じない、というものです。
 例えば、1000万円の年収の人を採用するのに40%のフィーが必要だとすると、400万円のコストがかかります。400万円あるなら、もっとほかにいい方法があるのではないか、というのがひとつ。
 もうひとつは、エージェントを使うと、応募者と採用側にボタンの掛け違いが生じるんですね。応募者も企業側も、相手が自分に興味を持ってくれているという誤解を最初のタッチポイントから抱えてしまうんです。
 結局、そのギャップを埋められないまま、入社するケースが多くなります。
──お互い、言っていることがかみ合わないんですね。
安田 ラッシュは、エシカルカンパニーという際立ったカルチャーがあるので、カルチャーフィットが非常に重要です。しかし、そのカルチャーギャップがあるまま入社するから、うまくいかなくて、辞めてしまうケースが少なくありませんでした。
 高額な採用フィーを支払ってもすぐに辞めてしまう上、採用マーケットに戻ったときに違和感や不満を広められてしまう。一体、我々は何にお金を払っているんだ、となるわけです。
──望んだ結果も得られず、コストも見合わない。そこで、脱エージェンシーに舵を切るということですね。
モデレーターを務めたのはNewsPicksのジョブオファー担当、西村脩平
安田 そうですね。もうひとつ、エージェンシーには、入社前のインプット、入社してからのサポートをしてもらいたかった、というのもあります。
 エージェントから紹介された人に、「エージェントから当社についてどういうふうに聞かれていますか?」と言うと、7割の人が「詳しいことは会社で聞いてくださいと言われてきました」と答えます。
 そういうことをトータルで考えた結果、エージェントに使う予算をもっと違う方法に使いたいと考えるようになりました。
──特に、共感型の採用が重視される今、優秀層ほど条件ではなくなっています。何かに共鳴する場を設け、接点をつくらなくてはいけない。そういう中で、どうやって欲しい人材とのタッチポイントをつくっていくか。そのフレームワークはあるのでしょうか。
植村 うちの会社はフレームワークなんて全然できあがっていなくて、戦いながら前に進んでいる段階で、偉そうに何かを言える立場ではありません。
 それでも、振り返って考えたときに、「私たちが出会いたい人はどこにいるのか」ということをとことん考えた、というのがあります。
 人事だけでなくそれ以外のメンバーも一緒になって、「あなたの欲しい人はどこにいるんだろう」と、毎日ディスカッションしたんです。
 最初の頃なんて、「グーグルの前に立って、よろしくお願いしますと言ってたら、いい人が見つかるんじゃないか」なんてことも言っていたくらい(笑)。それくらい原点に立ち返って、出会いたい人に出会えるまでやろう、と思っていました。
 そういう議論の中で出てきたのが、私たちのよさ、一休という会社の面白さをできるだけ多くの人に会って伝えるしかない、ということです。それは、話したほうが絶対伝わるものですよね。ですから、人に会えるイベントや場所にどんどん出向いていきました。
──オンラインの空中戦だけでは終わらせないということですね。
植村 偉そうに座っている場合じゃない、って思ってますから(笑)。その積み重ねで、自分たちなりのフレームワークのようなものができてきたように思います。
新時代の採用におけるトレンドの変化(図はNewsPicksBrandDesignチーム作成)

職種によってタッチポイントは違う

──そういう中で、具体的になにか発見のようなものはありましたか。
植村 例えば、営業や事業系の人は、イベントのほうが「この会社、面白そうだ」って感じてもらいやすい。でも、エンジニア向けにイベントをやって、事業系に向けた一休の熱量を同じように伝えたら、きっと全員がさーっと引いてしまうでしょう。
 そういうことを掘り下げて考えていくと、全職種、タッチポイントのあり方が違いました。
──確かにビジョンをストーリーにするのが得意なNewsPicksは、新規事業に関心がある人との親和性が高いですし、職種による違いというのは、ありそうですね。そのあたり、秋山さんはマーケティング視点でどのように分析されますか。
秋山 職種ごとのタッチポイントに、これというひとつの解決策はない、というのが正直な感想です。
 タッチポイントでいうと、求職者、もしくはその潜在層と接点を持ちやすい状況をどうつくるか、ということも重要です。
 ベーシックでもミートアップのようなイベントを積極的にやろうと考えていますが、いきなり「うちの採用に遊びに来てください」というのではうまくいかないでしょう。
 それより今は、対象となる人材が興味を持てるテーマや、自分たちの会社のフィロソフィーに近いテーマで、お互いの関係づくりをする場が必要だと考えています。

ペルソナを設定し、個別に解決策を探す

──それが採用における最初のフレームワークということですか。
秋山 マーケティングでは、「誰の、何を、どのように」ということがフレームワークとなります。対象者は誰で、その人が抱えている問題が何で、それをどうやって解決するか、ということ。
 その解決方法が求職者によって全然違うので、そこを整理する必要があります。それが、マーケティング用語「ペルソナ」、架空の理想となる人物像の設定です。
 ペルソナができたら、次は、自分たちの一番会いたい人はどこにいて、その人に会うためにどうしたらいいのかを考えます。
安田 ラッシュのフレームワークは、コーポレート全体のブランディングイメージをそのまま採用につなげる戦略。我々は自社でクリエティブの記事も撮影もやっているので、そういう人間にも採用プロジェクトに参加してもらっています。
 これは社内にもいい結果をもたらしていて、「我々が何者なのか」という定義を明確にできましたね。
「企業の未来を切り開く人材を引き付ける」採用コンテンツであるNewsPicksのジョブオファー。「自分たちが何者であるのか」というビジョンを、欲しい人材に伝わるストーリーにすることで、企業と読者の接点をつくっていくのが強みだ。

最後に、本イベントでNewsPicks CROの王子田克樹が語った「NewsPicksがこだわる『心が震えるストーリー』づくり」に込めたメッセージで締めくくりたい。

採用は未来への「投資」と考えるならば、時代の変化に合わせて「欲しい人材を採る」ために必要とされる採用アプローチとはいったい何か。

GoogleやTwitterで広告ビジネスを管掌しつつ、マネジメントとして日本、アジア、欧州の採用委員会にも深く関わった王子田がどうしても伝えたかったこととは──。
王子田 採用というのは、本来、会社の未来に対する「投資」であるはずなのに、いまだに「費用」というコスト感覚で捉えられがちです。
 また、スキルフィットの高い即戦力だけを重視しても、バリューが合わない、ミッションへの共感が少ない人材は結局、ミスマッチを起こしてしまいます。欲しい人材像は変化しているのに、採用の手段は変わっていないのではないでしょうか。
王子田克樹(おうしでん・かつき)/1986年三菱総合研究所入所。 Scient、Google、Twitterを経て、2019年に NewsPicks入社、CROに就任。
 今、これまでのやり方ではない、スキルフィットも、バリューやミッションへのフィットも高い採用を実現する新しいアプローチを探すときが来ていると思います。
 その新しいアプローチのひとつが、2016年から始まったNewsPicksの採用コンテンツ。「ブランドをデザインする」ことによって、高いエンゲージメントを獲得するメディアです。
 労働市場には現れにくい潜在層に確実にリーチし、心を震わせる企業のストーリーや体験を「編集力」で伝え、本当に採りたい人材から共感してもらい、応募してもらう。
 NewsPicksというプラットフォーム、そして高いクオリティを誇るジョブオファーのコンテンツだから実現できることです。そのストーリーづくりを我々の編集力で、ぜひお手伝いさせていただきたい。
 本当に欲しい人材獲得のために、ぜひ「次世代型採用」を真剣に考えてもらいたいと思います。
(編集:奈良岡崇子 撮影:大畑陽子 デザイン:堤香菜)