real local 山形株式会社ベーシック「山形ラボ」渡邊信生さん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

株式会社ベーシック「山形ラボ」渡邊信生さん

2019.10.21

モノからサービスまで、社会のインターネット化が進み、ダブルワーク、リモートワークなど働き方が多様化している。

そんな流れの中、10年ほど前から、いち早く山形で新しい働き方を実践してきたのが、株式会社ベーシックの渡邊信生さんだ。

株式会社ベーシックは東京に本社を持ち、Webマーケティング分野とメディア分野でインターネット事業を展開するテクノロジーカンパニー。

東京本社に勤務していた渡邊さんは、2009年に地元山形へUターンをし、2011年にはベーシックの山形開発拠点として「山形ラボ」を立ち上げた。現在は渡邊さんを含め、4名のスタッフが働いている。

株式会社ベーシック「山形ラボ」渡邊信生さん
株式会社ベーシックでエンジニアとして働く、渡邊信生さん。山形市生まれ。

正社員のままUターンし、さらには山形に会社の拠点をつくった渡邊さん。それは、単純に働く場所を移しただけではなかった。

自然豊かな環境で子育てしながら、IT業界の最前線で働き成果を出す。まちや人とのつながりを楽しむ姿、そして自身の職能を生かしてまちに貢献したいという思い。

働き方についてうかがうつもりが、思いがけず「豊かに生きる」ということについて、考えさせられたインタビューとなった。


──Uターンを考えたきっかけはなんですか?

渡邊さん:2人目の子どもが生まれたことを機に、ゆったり子育てがしたいと考えるようになりました。東京ではマンションに住んでいたので、子どもたちの足音が下の階に響いたり、周辺の騒音トラブルに気を使う生活でストレスを感じていました。いまは実家のとなりに一軒家を建て、子どもたちは思いっきり走り回っています。

フレックス制ということもあり、Uターン後は、仕事量はそのままに子どもと過ごす時間が長くなりました。

──渡邊さんがUターンされたのは約10年前で、今ほど柔軟な働き方が社会に浸透していなかった時期だと思います。どのようにして正社員として会社に残る選択をされたのでしょうか。

山形に帰るとき、まず一番に仕事のことを考えました。リモートワークという言葉がまだ世にない時期で、会社にも前例はなかったです。

当時、私がサーバー関係などインフラに詳しい方で、業務のコアな部分を担っていました。会社としても、すぐには代わりの人が見つけられない状況だったと思います。そうしたタイミングもあって、社長はすんなりと受け入れてくれました。

もし会社と信頼関係がなかったら、きっと切り出せなかった。しっかり成果を出して会社と信頼関係ができていたので、お互いに納得のいく交渉ができたのだと思います。元々の社風として、型にとらわれない、自由な発想を持つ会社であったことも大きな理由だと思います。

株式会社ベーシック「山形ラボ」渡邊信生さん
木の天井と床に囲まれた「山形ラボ」のオフィス。メンバーは後藤達彦さん(左前)、奥山浩己さん(左奥)、渡邊信生さん(中央奥)、長谷川博貴さん(右)

──2011年には「山形ラボ」が誕生します。どのような経緯で生まれたのでしょうか。

最初は山形で一人でやっていたのですが、大きなプロジェクトを担当していたので、近くに仲間がいたらいいなと思うようになりました。そのうち二人体制になり、山形駅前にワンルームマンションを借りたのが、山形ラボのスタートです。

その後、東京で開催した移住イベントで登壇する機会があり、そこに来ていたUターン希望者のエンジニア、長谷川さんと出会いました。

2016年に「とんがりビル」ができると聞き、オフィス拡張のため移転を決め、そのタイミングでさらに奥山さんと後藤さんが加わりました。最初の一人が脱退し、現在は4人のチームで、そのうち3人がUターン者ですね。

株式会社ベーシック「山形ラボ」渡邊信生さん
山形市の中心市街地、七日町シネマ通りにある「とんがりビル」。リノベーションまちづくりが盛んなエリアとして、注目を集める。

──ネット環境があればどこでもできるのが、IT企業の強みだと思います。あえて中心市街地にオフィスを選んだ理由は?

当初は山形市内のシェアオフィスを探していました。というのも、おもしろい会社が近くにある環境で働きたかったからです。

会社同士がつながってネットワークができれば、おもしろいことが起こるかもしれない。そう思って探していたところ、とんがりビルと出会いました。デザイン事務所、写真家、プロダクトデザイン、ショップや飲食など、とんがりビルにはいろんな職種の人が集まっています。

エンジニアは、内にこもってプログラミングに集中することが多いのですが、世の中の情報に触れていないと、おもしろいサービスは提供できません。エンジニアの集団ではなく、サービスを提供する集団であることを意識している私たちにとって、とんがりビルはとてもいい環境でした。

株式会社ベーシック「山形ラボ」渡邊信生さん
長谷川博貴さん。開発チームのリーダーとして、東京本社に3人の部下を持っている。

──山形ラボができて、8年が経とうとしています。リモートの開発拠点というスタイルでのお仕事はいかがでしょうか。

最初は月に1~2回、温度感を確認しに本社に行っていました。いまではリモートのスタイルにすっかり馴染んでいて、東京の本社に行くのは、数ヶ月に1回ほどです。

最近は社員数が増えて、本社でも理由があれば自宅からのリモートワークもOKになっています。そうなれば、山形にいても東京にいても変わりませんからね。

山形ラボの4人のうち、3人が同じプロジェクトメンバーとして動いています。細かいことは山形ラボで直接コミュニケーションがとれますし、大きな議題はリモート会議で東京とやりとりするので、業務のうえで弊害はありません。

株式会社ベーシック「山形ラボ」渡邊信生さん
語学堪能で海外のベンダーとのやりとりもする奥山浩己さん(左)と東根市の温泉旅館の若だんなという顔も持つ後藤達彦さん(右)。個性豊かな山形ラボのみなさん。

──ベーシックのようなIT業界でなくとも、リモートワークは可能でしょうか。

いまはITを取り入れていない業種のほうが珍しいですよね。小売やサービス業でも、ネットで受注や顧客管理をしたり、農業ですらも、建物の中で栽培キットを揃えて、水撒きや温度管理をIoT(あらゆるモノがインターネットにつながる仕組みのこと)で置き換えて、収穫のときだけ畑に行くこともありえます。

人の手が介在しなくても、仕事ができる世の中になってきています。自分で仕事を探せる人であれば、必ずどんな業種にもリモートワークの可能性はあるはずです。

──リモートワークをする上で、大切な心構えはありますか?

自分がやるべきことを見つけられるか、ではないでしょうか。主体的に働き方を考えないと、言われたことだけをやっていては、結果が出せません。結果を出すことが、会社との信頼関係につながっていきますから。

一方で、最近はリモートワークのハードルが下がっているとも感じています。これは特にIT業界での話かもしれませんが、IT業界は毎年需要が伸びていて、エンジニアの数が全然追いついていない状況です。東京では人材が取りにくく、地方で人材をとる動きがあります。

そのときに、人材を確保するのが優先で、多くの結果を求めるのではなく、一定のラインを満たしていれば大丈夫、という世の中になりつつあります。

──そうなると、リモートワークはこれから加速的に増えていきそうですね。

数もそうですし、働き方ももっと多様化すると思います。少し前までは、同じ場所に住み続けることが当たり前でしたが、いまは世界中のいろんな地域に移動して、場所にとらわれない生き方が増えていますよね。リモートワークをする場所も、ひとつに限定する必要がない。

山形ラボを構えて、チームでやれるメリットを感じながらも、自分も含めメンバーの場所を固定してしまったことは、少しもったいないとも感じています。

株式会社ベーシック「山形ラボ」渡邊信生さん
最新の技術を取り入れながら、オールインワンマーケティングツール「ferret One」のインフラエンジニアとして開発を率いる。渡邊さんは、モニターは使わずmacひとつで仕事をするスタイル。

──山形に拠点を持つことにどんな魅力を感じていますか?

世代や属性などの垣根なく、人と繋がりやすいことが、山形のひとつの特徴だと思います。

権力や地位もあまり関係がなく、まちには企業の社長が歩いていて、学生さんもいて、お互いが気軽に接点を持てます。コミュニティの場に議員の方が参加されたり、市長と気さくに接することができたり。そんな状況を大都市でつくるのは難しいのではないでしょうか。

山形市は県庁所在地で多くの中小企業があり、多様な層が交流するのにちょうどいいサイズ感だと思います。幅広い層がリンクして、なにか一緒に取り組むことになれば、すごいスピードで物事が動く。そこに可能性を感じています。

これは希望の話ですが、今後は、山形に学生さんがインターンできる企業が増えたらいいなと思います。そんな企業が増え、インターンの学生が行き来すれば、業界内で情報が回るようになり、エンジニアも流動しやすくなるはずです。その文化が根づけば、山形ラボでも今後インターン制度を取り入れていきたいと思っています。

──横のつながりを持つことで、業界全体として成長していくということですね。

そのためにも、人が集まれるコミュニティの場やイベントが増えるといいですね。

先日、七日町にあるコワーキングスペースの「too」で毎月開催している、「山形developers meeting」というITの開発者やデザイナーが集まるイベントに参加してきました。3~4人が仕事内容についてプレゼンして、学生さんと社会人が交わってみんなで飲んだり食べたりしながら、意見交換する場ですごく楽しかったです。

自分でも「やまがた語らナイト」という地域のネットワークをつくるイベントで実行委員をしています。

──渡邊さんとお話していると、いち会社員の枠を超えて、まちのコミュニティの一員としての思いを感じます。

エンジニアの仕事はリアルなコミュニケーションが希薄になりがちなので、身近にいる人たちとコミットしていくことが楽しいですね。直接人と関わる場で情報に触れていたいし、自分としても発信していきたい思いがあります。

株式会社ベーシック「山形ラボ」渡邊信生さん

そして、これはいちエンジニアとしての思いですが、機会があれば、プログラミングのことを気軽に聞ける場をつくって、子ども達と関わることにチャレンジしてみたいです。

来年からプログラミング学習が小中高で義務教育化されますが、山形にはまだ気軽に学べる場がありません。学校の先生もこれから勉強が必要になるので、先生にITを学んでもらうことも、とても大切だと思います。

──最後に、「山形ラボ」として、これから目指すことを教えてください。

東京だけではエンジニアが足りないので、今後は人材募集をかけて、Uターンのエンジニアを探すかもしれません。山形ラボをひとつの基点にして、今後エンジニアを増やし、開発拠点として成長していきたいと思います。

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